2022年度 京都市立芸術大学 作品展 / 22-23 KCUA Annual Exhibition

版画 油画 漆工 版画:宇都宮 三帆
油画:北村 花
漆工:川崎 李恩
DIALOGUE 001

改めまして、お名前と専攻を伺ってよろしいでしょうか?

北村 油画専攻4年の北村花です。

川崎 漆工専攻木工ゼミ4年の川崎李恩です。

宇都宮 版画専攻4年の宇都宮三帆です。

よろしくお願いします。今回はスケッチブックをお持ちいただいているんですが、それを見ながらお話ができたらなあと思っております。では今の自己紹介の順番で、北村さんから。

北村 はい。スケッチって感じじゃないんですけど。

ドローイングですか?

北村 そうです。アクリル絵の具で、モノタイプというやり方を試しています。ちょっと版画っぽくもあるかなと思うんですけど。アクリル絵具でアクリル板の上に描いてから、版画みたいに紙に転写する技法ですね。その上からまたドローイングを重ねたりもします。

技法の研究、って感じですか。

北村 そうですね。なんで、たまたまできた模様から発想していくって感じです。

川崎 僕はどちらかというと「具象」に寄った制作をしているので、美術の人たちの「抽象」に興味あります。僕はもともと美術高校でデザインを専攻して、そのあと京芸で工芸を選んだんですが、そこで求められる評価基準と美術の領域で求められるのって違うと思うんです。北村さんのドローイングを見て、美術の抽象だ!と思いました。

だからさっきじっと見てたんですね(笑)ちなみにドローイングはどんな時に制作しますか?一日一枚、とか決めているんですか?

北村 いや…作品化する前の構想段階でいっぱい作ります。技法を試してみたり。あとは偶然性とか。思い浮かんだことをどう形にしようと考えたときとかに、作品だと思うとどうしても硬くなっちゃうので、自分の手癖みたいなものがすごく出てきて。枠に収まっちゃう、つまらないものになりがちなところを、モノタイプみたいな偶然できる形などを探ってから作品化した方が面白いものができるんじゃないかなと思ってやっています。

確かに、幅が広い感じがします。

では次、川崎さんお願いします。

川崎 僕の場合、手書きしたのはこれだけで、あとはパソコンで図面を描いてるって感じです。プロジェクションマッピングの投影先の図面を描いたり…手描きでやったものはざっくりと描いたものですね。大体このくらい取っておけば、後からガリガリ削っていけるというような。ノミを使って制作する場合は細かく決めませんね。こっち(写真左下、一番下に見える図面)は卒業制作についてです。母校をミニチュアにしようとしていて。Illustratorで描いたものです。後はこっちはスピーカーの設計図です。これは、スピーカーの図面がネットに上がっていました。個人的には、はじめらオリジナルで図面を仕上げるよりも、参考資料を持ってきてそれをもとに作ることが多いです。先生に相談する時用にスケッチを書くことはありますが、実際の制作に使うのはかっちりした図面ですね。家庭用のプリンターで印刷したので、A4のコピー紙を貼り合わせてます(笑)木を扱う制作なので、木の様子を見つつ的確に制作するためにも、きっちりした図面は必要ですね。節があったりすると制作が難しくなるので、上手く避けつつ作るためにも。

宇都宮 売られている木のサイズって決まってくるじゃないですか。木のサイズに合わせて図面を作るのか、図面作ってから木を探すのか、どちらですか?

川崎 どっちかというと、設計してからそれに合った木を探します。特徴的な木があって、それがどうしても使いたい!って言って作っている人もいますね。その場合はあんまりガチガチに決めた設計をしません。

宇都宮さんは、版画の中でも木版を専門にしていますよね。だから気になってるのかなと思ったんですが…

宇都宮 そうですね(笑)木が気になっちゃう。

北村 こういう図面って、建築のものとはまた違うんですか?パッと見た感じすごく建築の図面っぽいなと思ったんですが。

川崎 どうなんだろう…僕も専門にしてるわけじゃないですけど…Illustratorを使うので、機械として出しやすい形にはなってるかもしれません。建築図面との違いで言うと、かぶっている所は描いていません。建築図面だと、窓の向こうまでとかかぶっているところを描きますけど、見づらくなるので(笑)実線か破線か、破線でも一点破線か二点破線かなどルールがいっぱいありますけど、これは完全に自分用なので好き勝手やっています。

北村 なるほど!ありがとうございます。

ありがとうございます。では次、宇都宮さんお願いします。

宇都宮 私もあんまりドローイングはないんですけど…版の下絵です。ドローイングを経て、これから版になるやつがいっぱいあったから持ってきました。これは下絵になる前のものです。

か、唐揚げが描かれてる…

宇都宮 この辺の作品は写真から来てて。これが下絵の下絵で、これが版にするために輪郭を出したやつ。こっちは手描きの線から版を作ろうとしたときのやつです。こういうとこから線を取って刷ります。

段階を踏んでいっている感じがすごく分かりますね。

宇都宮 そう、そんな感じです。下絵を作って、トレーシングペーパーに写していきます。版画ってたくさんの版が重なって一つの絵を作るから、描くモチーフを版に分解する工程があって。それを、トレーシングペーパーで一枚の基本の検討を描きながらやっていきます。検討というのは版の端っこの目印のための線です。これを描いて、これに合わせることでずれないようにするっていうのが、木版の基本的なやり方ですね。検討がずれると全然うまくいかないから、トレーシングペーパーで写しながら版を描き足していってます。

これは?

宇都宮 これは彫り進めというもの。木版は木を彫ると、彫ったところが抜けて木を彫ってないところに色がつくんですよね。

もう戻れないって感じですね。

宇都宮 そう(笑)版画って本来は、刷り終わっても版が別々にあって版が損われないから、基本的には複製性があるんですよ。でも彫り進めでやると、最終的に版がなくなっちゃうので、版画の複製性がなくなる。だから掘り進めの時はめちゃくちゃ複製をとります。失敗するし。

北村 最終の版には、もう途中の工程は残ってないってこと?

宇都宮 そう、途中の工程は全部彫って無くしていく。

北村 なるほど…全然違うんですけど、私モノタイプやってて。それは全然版画じゃなくて、ただ描いたのをパタンってやって版画の質感みたいになるってだけ。版画の技法に則ってはいるけど、版画の特徴の一つである複製性自体はない。できてる作品は版画に見えるしなんか似てるなと思いつつ、でも特殊な技法なのかなって。面白いなと思いました。

確かに複製はできないもんね。

宇都宮 そう。あ、でも刷るときに何枚か刷るから、1回目の工程で6枚刷ってたら最終的に6枚できるけど、6枚以上はできない。

緊張しそう…

宇都宮 する(笑)

宇都宮 木だから、水分を吸って反ったりするんですよね。それで、一ミリとかズレてきちゃって。ズレると何もうまくいかなくなる。版画は展示するときの額のサイズから逆算して作品のサイズを決めることも多くて。計画性が必要。

川崎 てことは、木版は、元々の木の大きさが作品の大きさになる?

宇都宮 のことが多い。でも版を重ねられたらいいわけだから、複数の版を組み合わせてでっかい画面、っていうことも、可能っちゃ可能。でもそれよりも、紙の制約が大きいかもしれない。

川崎 あ~

宇都宮 和紙ができる幅があるから、版画の作品ってあんまり大きい作品はない。手漉きだったら持てる幅しかないし、プレス機を通す技法だとプレス機に入るサイズが限界だし。

結構規格に左右されるんやな…初めて知った…

北村 なんで木版を選んだんですか?

宇都宮 う~ん。惹かれた?のかなあ。私はあんまり細かいことや設計図を描くのが得意じゃなくて。木版は版画の技法の中でも工程が少なくて、単純。彫ったら出るし、彫らなかったら出ないし、彫り過ぎたら出てこないし。力を入れるところがあんまり多くないから私は得意だった。

確かにシルクスクリーン、工程が結構あるイメージ。

宇都宮 そう、リトグラフとかもすごい工程多くてできない(笑)

川崎 僕もちょっと近いかも。僕も木工やりたくて入って、一応基礎で全部やるけど、黒漆でピカピカにするやつとか、本当に工程が多い。工程が多いってことは、プランニングが大事ってことですよね。

宇都宮 本当にそう。

北村 油画もあんまり乾かないしね。

川崎 工程が多いとプチリスクが多い…

宇都宮 プチリスク…そう。リスク管理が楽な技法を選んでます。

なのに彫り進めというリスキーなことを…

宇都宮 そう、やってたらやりたくなっちゃう。
でも、そうかも。私は版画を油性絵具で刷ってて。水性絵具は1日経たずにとか結構すぐ乾くんですよ。でも油性は2日くらい乾かない。版を重ねていこうと思っても、一気には刷れなくて、1日2版が限界。それ以上やると版に紙の上の絵具が持っていかれてうまく乗らないこともあるから。2版刷ることを前提にスケジュールを組んでいかないと、最終的に間に合わないなんてこともあるし…結構計画性が必要になる種目かもしれない…

ちなみになんで油性なの?

宇都宮 自分の作品のイメージと絵具の感じの問題かな。油性の方がペッタリつくんですよ。水性木版は結構情緒がある。でもそういう優しさとか感情が籠る感じは、自分の作品にはいらないかなって思って。

ではここで、専攻から専攻へ質問コーナー、としたいと思います。まずは宇都宮さん、油画及び北村さんに、何か質問はありますか?

宇都宮 私けっこう、北村さんに文字とか文章のイメージが強くて。文章を書いてる時に考えてることと、作品制作をしてるとき考えてることって連動してるのかな、それとも頭の中できっちり分かれてて、作品に対しては作品だけのスタンスがあって、それとは別に考えて文章書いてるのかどうなのかなって。個人的な疑問があります。

北村さん、先日の芸祭で出された本がかなり反響を得ていましたね。私も後日販売の恩恵に与りましたが…いかがでしょうか。

北村 そうですね…そこはなんか、絵を描くときと文章書くときは切り分けている感覚があります。絵画作品を作る時って、やっぱり抽象的なところに行きがちなので、こぼれ落ちるものもたくさんあって。それを文章で掬い取ってるってこともあるし、その逆もあります。文章で書いてたら表現しきれないところもあって、それをまた絵画でやって、お互いをお互いが足りないところを補い合ってる。スタンス的には、絵を描いてる時やドローイングしてる時は、やることが増えていく。これやったら次あれやりたい、ってどんどん思考が膨らんでいく気がするんです。文章書いてる時は逆に、いろいろ考えてるまとまらない考えを、抽出して整理して書く、って感じなので、プロセスが逆。絵は固まったものを広げる感じで、文章はすでに広がっていることを落とし込む感じ。感覚的な話なんですけどね。

確かに文字って具体的に表れてくるから…どちらかがどちらかの息抜きになってるってことは?

北村 それはある。どっちか行き詰まったらもう片方やる。

じゃあもう、両輪で進んでいくんですね…!

宇都宮 ありがとうございます。

北村 ふふふ(笑)

じゃあ花ちゃんから、漆工及び李恩くんに質問はありますか?

北村 ちょっとズレた質問になるかもしれないんですけど(笑)音楽をやってるじゃないですか。音楽を作ったり、それを作品化したり。作曲とかもしてましたっけ。そういう、音楽と作品制作のモチベーションってどんな感じですか?最初から、作品にしたいなと思って音楽を作ってたのか、たまたま「融合させたい!」みたいに思ったのか…どういうきっかけがあって作品を作ろうとなるんですか?

川崎 僕もこれは、就活の時にすごい整理した内容なんですけど…

川崎 いろいろ興味があって、それがやりたかったからっていうのが一番シンプルな説明です。僕が音楽を始めたのは高校の卒業制作でアイドルのMVを作ろうとしたとき、使う音楽が著作権で制限されるのが嫌だったから。あと、動画を作る人になるなら音楽も作れた方がいいなって。そしたら音楽作る方が楽しくなったりして。僕はあくまで目的のための手段を好きになるっていうことが多い。今も、ミニチュア作るときに、木工以外にも家でやってた粘土の表現や3Dプリンターの技術も使ってる。そういうふうに、僕の場合は、一つの目的に向かっていろんなことを必要とすることが多いですね。自分の作品に関することは、人に頼らず自分で全部できたらいいよねっていうDIY精神です。あとは、自分の領域で真っ向勝負したら自分より上手い人いっぱいいるから、自分のアイデンティティを確保するために他のデジタル要素かき集めてるという意味もあります(笑)工芸ってひとつひとつに特化してる人が多いけど、いろんなことを広く浅くやってるのもまた、自分らしさかなって思ったり。

なるほど…

北村 ありがとうございます。

では、李恩くんから、版画及び宇都宮さんに何かありますか?

川崎 僕は、版画の特に木版ってすごい特殊だなと思っていて。工芸基礎で染織の技法を体験していたとき、描いた線の形に紙を切って、それを置いて刷るっていう技法を知って。木版とかの版画も、一回絵を描いた上で、それを切ったり貼ったりして絵が完成するじゃないですか。ってことは直で描かずに工程を挟む技術だと思うんです。それすると、尖ったように描いた線が丸くなっちゃったり、意図せず生まれたノイズが多くなるように思って、それが自分に合わなくて辞めちゃったんですけど。あえて絵じゃなくて版画にした、工程を挟むジャンルにしたのはなんでなのかなって思いました。

宇都宮 そうですね、木版というのは、版画の中でも描いた線が一番出ない版種なんですよね。線を彫刻刀でなぞって出すので。私個人の話ですが、私は絵を描くのがあんまり好きじゃなくて。だから、絵を描きたくなくて版画にしたっていうのがありますね。私が自分の絵が苦手な理由は、自分の考えてることが、すごくダイレクトに出ちゃうから。けど、版画にする行為って、線の輪郭を丁寧になぞることで、絵を描くときと違って整理できるんです。自分が出したいものと出したくないこと、考えてたこと…実はこう思ってる、みたいなことが、版画をやってく作業の中で整理できる部分があって。だから私は肌に合ってたっていうのはあります。

川崎 工程を挟む分、作業が伸びるけど、その時間が取れるともいう、みたいな。

宇都宮 そう。木版は特にそうなんですけど、版を彫った瞬間に完成ってある程度見えてて。絵画みたいにここちょっと描き足して、とか色欲しいな、とか足すことができない。最初から一個のことにちゃんと向き合っていかなきゃ完成しないっていう完成が決まってる感。その中で自分がやりたいことを探して行かなきゃいけないところが、逆に自由じゃなくてやりやすい。

川崎 わかる気がする。木工も切っちゃえばもう戻れないから(笑)

宇都宮 そう戻れない(笑)ギリギリまで粘る、みたいなことができない。粘れないから、真剣になるのかなって思う。こうなっちゃったら仕方ない、失ったものは帰らない…みたいな。

川崎 確かに絵画だと、めっちゃ時間経ってからも加筆できたりしちゃうから、それが逆に自分の中での完成を決められなくてしんどい、って部分もある気がする(笑)版画のその潔さみたいなものは羨ましいなと思いました。いいなあ。

確かに制作展直前、版画専攻は意外とゆったりしてるイメージ。

宇都宮 そう、終わるのよ。版画は終わるの。額を注文しなきゃいけなくて、額の納期に合わせて制作するから。

なるほどです。一旦工程を挟むことで第三者視点になれるんですね。ではこんなところで、今回の対談を終わらせていただきたいと思います。みなさまありがとうございました!


  • インタビュアー駒井 志帆
  • カメラマン大谷 花
  • 対談場所喫煙所

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