2022年度 京都市立芸術大学 作品展 / 22-23 KCUA Annual Exhibition

彫刻 ビジュアルデザイン 保存修復 彫刻:大西 秀哉
ビジュアルデザイン:田中 愛莉
保存修復:関 ひとみ
DIALOGUE 002

改めまして、お名前と専攻を伺ってよろしいでしょうか?

はい。保存修復専攻修士2年の関ひとみと言います。よろしくお願いします。

大西 彫刻専攻の4年生の大西です。お願いします。

田中 ビジュアルデザイン専攻4回の田中愛莉です。よろしくお願いします。

持ってきてもらったメモなど見させていただこうかと思うんですが、まずは関さんからよろしいでしょうか。

こんなん見せるのめちゃくちゃ恥ずかしい(笑)

見せれるやつで大丈夫ですよ!

作品ではないですが、保存修復に関係する事前の分析結果を展示したパネルを印刷してきました。今年は、去年行った色々な調査をもとに、肖像画の技法とか、どういう顔料を使っているかなどの分析をしました。顕微鏡で耳の所を拡大すると、この人がどのように描いたのかわかるんです。どのような絵の具を使っていたかというのも、蛍光X線分析という機械を使って波長を調べるとわかります。肌のところにはカルシウムが出て、胡粉が使われていることが分かりました。Hgは朱だからここには朱が用いられていますね。それについて今まで先輩たちが調査したデータを全部まとめたものです。

大西 ちょっと質問してもいいですか?単純に、経歴をお伺いしたいんですけど。

私は前は理系の、実験動物などを使ってた分野の人間でした。もともと絵はすごく好きだったので、何かしら趣味でやれたらいいなって思ってて。あるタイミングで修復のことを知って、興味を持ちました。ここに入る前は教室に通って油絵の修復を勉強してたんですけど、その時行ったイタリアへの研修旅行で、現地の先生に「なんであなたたちは日本の絵の修復をしないの?」と言われてハッとしました。そこから色々調べて、仕事も定年を迎えましたのでここ(京芸)で勉強してみたいなと思いました。理系の目で見て何か役に立つことがあるんじゃないかなと思ってきてみましたが、実際やってみて、人も絵画もみんな直すって意味では一緒だなと感じました。

大西 永遠に質問出来てしまう。

じゃあちょっと置いといてもらって(笑)あとでいきましょうか。制作ノートというよりは研究ノートみたいなところが強いですかね。

そうですね。授業の一環として若冲の模写をやったり、漆工の方の修復をさせてもらったりしてます。でも他の保存修復の方はこういう調査をして、結果使われているものがわかると、それを知識として自分で仏画を描いたりする人もいますね。

ありがとうございます。じゃあ大西くん。

大西 僕はスケッチブックは無いんです。彫刻専攻なんですが、めちゃくちゃ自由で、彫刻基礎の授業が終わったらずっと放任です。作りたいものがある人はそれを作るための技術を磨いていけばいいんですけど、僕は一切そういうのがない。表現はしたいんだけど、その目的はなかった。絵は描きたいけど、描くモチーフが見当たらないみたいな感じでした。僕の場合はスケッチブックというよりも、携帯のメモ帳がそれに近いと思います。メモ帳に毎日1000字くらいメモってる時期とかあったし。そういうのが作品になって、それを作品展に出す、みたいな流れでやってきました。後から一体何したかったんだろうって、やったことを見返して考えるっていう流れをずっと繰り返してますね。現代アートのジャンルだと、こういうことしようかなと思ったら大体すでにやられてるんです。何でもいい中で誰かがやってるやつをやるんじゃなくて、じゃあ自分は何をやろう…ってのを考え続ける毎日を過ごしてきました。

とりあえず直感で一回?やってみようでやってる感じ?

大西 そう。長期的な計画が一切立てられなくて。瞬間的な衝動を頼りに作っていく。

なるほど。ありがとうございます。じゃあ次、田中さんお願いします。

田中 物があんまりなくて、作品集のようなものがあったので、持ってきました。就活用に作ったやつです。

一押しページはありますか?

田中 ブランディングの課題で作ったものがあるので、それかな。和ハーブと緑茶を組み合わせた新しいお茶のブランドをデザインするという授業でした。自分で体を温める効果やリラックス効果があるお茶を調べて制作していきました。内容物から外側の形やパッケージのデザインまで丸ごと。私は、商品として発売することを前提とすることが多いですね。私は、私の作ったもので人の心を動かしたり、喜ばせたいと思っていて、実際に商品として使ってもらうことを前提としたデザインや、受け取った人がどう心を動かしてくれるか想像しながら作ることが多いです。私もこれを作りたいっていうのは最初はないんですけど、「相手に何を思って欲しいか」の行き着く先をしっかり定めて、どの表現方法が伝えたいことを一番伝えることができるかを考えながら作ることが多いです。

商品化されてるんですか?

田中 全部商品化はされてないんですけど(笑)されるもの、を考えながらやってます。文字デザインをちょっとやってみたり、アニメーション制作をやったり、布のシルクスクリーン印刷をやったり。幅広く色んな素材に触れながら、素材を生かしたものをたくさん作ることが多かったと思います。これは今やってる卒制のためのものです。卒制の5、6分の1ぐらいのもので、これを出す訳じゃないんですけど。

こっちのスケッチも見ていい?

大西 スケッチうまい。何使って描いてるんですか?水彩?

田中 いや、これは最近買ったiPadで書いてます。もっと早く買えばよかったって思ってるんですけど(笑)

造形系が多い感じですか?

田中 ビジュアルデザインの中でも、私はどちらかというと粘土こねたりとか立体物が多くて。平面とかイラストをあんまり制作しないんですよね。広告系というよりはモノを作る方が多分好きなんかなって。

大西 なるほど。そういうモノ系だと就職はどういうところになるの?

田中 商品のデザインとか、モノになる仕事にも興味があるんですが、今はパッケージやカタログなどのグラフィックデザインをさせてもらえるところに就職する予定です。そこから色々伸ばしていけるようにしたいなと…模索中なので、まず平面からいってだんだん広がっていけば良いかなって思ってます。

ありがとうございます。では、質問タイムにいってみようかな。お2人から保存修復の関さんに質問をどうぞ。

大西 ずっと思ってるんですけど、修復するものって無くならないんですか?

永遠に無くならないと思いますね。展覧会とかで出されているような国宝でも、あんまりよくない状態で保存されたり、危ない状態のものもいっぱいありますし、指定品じゃなくても、お寺なんかに代々続かれた物とかはいっぱいありますし。やっぱりお金がかかるのと人手が居ないのがあって、国の補助がないとなかなかそう簡単にできないから保存修復の人は需要が結構ある。でも、就職先がないんです。

大西 やってるところ自体がない?

特に日本のものは職人技なのですぐにできる訳じゃなくて、大学を出てここから積み上げていく、というような世界だから、なかなか難しいですね。修復にもすごくお金がかかる。昔のもの、裂や絹を使って直していくっていうのはね。

大西 全部最初から復元するんですか?今のものに置き換えるとかじゃなくて?

昔のものが手に入らない場合もあるから必ずではないですね。でもその修復した部分だけ今のものを使うとそこだけ目立っちゃうので、その場合は今のものをわざと劣化させて古い絹に見せます。放射線を当てると劣化させることができるんですけど。そういう技法を使ったりして、なるべく元のものを痛めないように修復します。でも基本的に、日本の絵ではもともと描かれた絵には手をつけません。西洋の絵は補彩といって、絵具を足したり結構できるんですけど、日本のものはなるべく元のものを残していく方向性です。

大西 綺麗に戻すっていうよりか傷を直していくって感じですか?

そうですね、それ以上悪くさせないように。あと、将来また修復する人のために可逆性を残しておくことも重要です。その時にまた剥がせるように。日本の糊は、熱で剥がせるので、そういったものを使っています。本当の接着剤使っちゃうともう剥がせないですからね。次の時代の人が修復できるように、修復していく。

大西 途方もない。

彫刻や現代美術の世界でも修復はありますよね。彫刻の人とか現代の人に聞きたかったことがあって。現代芸術をどう残していくのかが修復の関係者の中で問題になっていて。デジタルアーカイブとか、映像の保存とか。映像の形態も変わっていくじゃないですか。部品がなくなって元を見ることができないとか。その辺、今のアーティストは自分の作品に対してどういう想いて見てるのか気になってます。残していってほしいのか、そういうのは自分だけで良いのか。

大西 本当に人それぞれですけど、僕は別に残っていかなくてもいいと思っている派。残ってしまうと、止まっていると思ってしまいます。考え方が真逆かもですね…僕の考えとしては、作品が社会の中で移ろっていく方がありがたい。残したいって周りの人が思うのと、作家本人が思うのは結構違ったりするなと思う。作家のメモやノートが亡くなってから展示されたりするのも本人は絶対嫌やろな。

その時居ないからね。わからないよね。

田中 私はどっちかというと残してほしいタイプです。作品として出してないスケッチは、確かに恥ずかしくて見て欲しくないかもしれないけど、作品として公表してるからにはやっぱり、見てほしいことや表現したいことがそこにあるはず。例えばそれを無くすとか、無くなっていくことを含めての作品だったら、その過程を残したい。あったことは残ってほしいです。考え方とかも歴史と共に変わっていきますけど、以前の考え方があったってことが大事かなと思うので。

すごく人それぞれですね。では次の質問コーナーに移りたいと思います。お2人から大西くんに聞きたいことはありますか?

作る前の構想を練ってることに力が入って、その勢いでする場合もあるやろうとも思います。私も、ちまちました細かい修復の作業が好きで。だから前の仕事でも実験の作業が好きでした。結果は結果として、わかったことはおもしろいんですけど、過程の無心でやる作業がすごい楽しくて。そういうのが制作のモチベーションになることはないんですか?

大西 好きです。プラモデルとかすごい作るの好きだし、絵も細かいのをずっと描いたりする。でもなんでもいいよって言われたら…

ああ、なんでもいいよって言われたらそうですね。なんでもいいよって言われたら、えっどうしよう…みたいな?

大西 そうですね。何しようみたいな。でもやっぱり、現代美術としての制作を僕はおもろいと思ってるので、作業もいいけど、誰もやってない新しいことをしたいと思いますね。

なるほど。

大西 細かい作業が好きなんやったら、家で1人で作っとけばいいんじゃないって言われます。この大学で何かやるなら何をやろうかってずっと迷ってる、みたいな。なんか、ご飯とか食べ終わった後に友達と喋ったりする時、お箸袋とかをいじっちゃったりしません?僕の制作ってああいうイメージなんですよね。ああいう手癖みたいなのを手がかりにずっと制作してて。作りたいものがあるわけじゃないけどやっちゃうこれって一体なんだろう…って。手元のそれを手がかりに、どうしたらこれが作品になるだろう…って考え続けてます。僕の制作室はモノで溢れてるんですけど、とりあえずモノを周りに置いてそこにおったら何か生まれるんちゃうかみたいな。それをずっとやってました。

いいじゃないですか。すごいな。

大西 制作室ぐっちゃぐちゃなんですよ。物どけろって言われる。

いやいや素晴らしいと思います。そのスタンスはずっと続けてください。そういうのって自分の中から出てくるものとか本質だったりする。

大西 そういう自分を期待するというか、信じてないといけない。突然作れなくなったら終わりっていう恐怖もあるし。

田中 将来的に作家としてやっていきたいというのはあるんですか?

大西 これも本当に難しくて…作家もなんかちゃうなって思い始めちゃってます。理想は、ずっとこうフラフラし続けて何やってるかわからん人になりたい。今はなんでもやっていいよって言われていて、でも芸術をやりなさいって言われる環境にいることすらなんでやろうって思えて。作品を作ることも作家としてやっていくことも、なんかそれは新しくなくない?本当に誰もやってないことってなんだろうって考えると、何もやらないみたいな方向かなって。

ありがとうございます。では次に、ビジュアルデザインの田中さんに質問ありますか?

田中 私は高校は普通科で、でもずっと絵を描くのは好きでという感じでした。例えば学級旗を作るときに、「描けるなら中心になって」って言われることが多かった。そういう時、いろんな人をまとめて、あんまり喋ったことないクラスの子も一緒にチーム制作できたっていう経験があって。デザインすることを通してチーム力を作れることや、デザインとかアートが持つボーダーレスさみたいなものが感じられたというか。その上で世の中のデザインを考えたら、その辺に転がってるんですよね。そうなるとその辺に転がってるものを自分も生み出したいなって思って商品に行き着きました。この学校だったら技術力だけじゃなく、そういう考え方も学べるんじゃないかと思ってこの学校に来ました。

大西 そういうのを学んでいくと、これちょっとお金の匂いすごいするなみたいなデザインが出てくると思うし、キャリアの上でそういうことをしなければいけなくなるはずだし。そういうのと向き合っていかないといけないのは、デザイン科の宿命なのかなと思うんですけど、予算やお金のことって制作に関しても考えてるんですか?

田中 一応予算はあります。さっきのお茶だったら百貨店で売るものという条件だったのでちょっと高めでした。私はむしろそういう制限がある中で一番いいものを生み出すのを楽しさと捉えてますね。私もなんでもいいよって言われると何がしたいってなっちゃうので、ある程度制限がある中で一番いいものを世界に出すっていうのだと、楽しみながらできるかなと思います。

大西 大事やなそれ。制限作ってみたら作りやすくなるかもしれないですね。難しいですよね芸術って本当に…

デザインって、似ちゃったりとかの被りって検索できるんですか?前のオリンピックのロゴの件とか。

田中 意匠権とか調べられるサイトは一応ありますね。使う材料と形と用途などを入れたら検索できます。最近は画像検索も。本当に世に出すとなるとやっぱりちゃんと調べないと。平面だと特に被りやすいと思います。

確かに。

田中 作品となると「なんか似たような」はあるんですけど、自分が伝えたいことが既存の作品のそれと違ってたら表現が一緒でも見え方が変わると思うので、そこの中心にある自分にしかないものを大事にして、表現するような感じですかね。

大西 パクリ問題は確かに難しいよな。AIとかどうなるんやろ。AIに全部とられる可能性あるかもしれない。

著作権とかね。なかなかしょっぱい。

しょっぱい話ですねこれは。

どなたか、絵を描くAIは写真が出てきた時代に比べたらましっておっしゃってて。確かにと思いました。

大西 落合陽一が言ってました。もう再来年にシンギュラリティがくるって。

なるほど。では話がそれかけたところで、そろそろお開きとしたいと思います。みなさん、ありがとうございました。


  • インタビュアー駒井 志帆
  • カメラマン大谷 花
  • 対談場所芸資研

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