よろしくお願いします。
島田 総合芸術学の4年の島田千晴と申します。
竹内 染織専攻の4回生の竹内利佐です。
安田 環境デザイン専攻4回生の安田結葵です。
森 構想設計専攻の4回生の森彩人です。
今日は皆さんのスケッチブックや普段やっている制作のものを持ってきてもらったのですが、その制作の過程や足跡を見せていただいて、みんなでワイワイしていきたいなと思います。それでは島田さんからお願いします。
島田 変わり種からでもいい?私は芸術学なので研究をしていて、中国の明とか清の時代…ちょうど日本で言うと江戸時代のあたりの絵画の研究をしています。主に研究しているのが、こんな(写真参照)渋い花鳥なんですけど。沈南蘋(シンナンピン)と言う画家の作品です。鎖国時代に中国から日本に来日して日本美術に大きな影響をもたらした画家です。私はスケッチブックは持ってないんですけど、研究や論文を書くときには頭の中で整理するようなノートを常に書いています。あと、研究のものに限らず、いろんな絵画を美術館に観にいくことが多いので、そういう時は自分で実際に見たものをざっくりしたイラストとしてメモしています。書きながら説明を聞いたりとか、作品を見ることが多いです。これをすることで細部を追ってみれるというか、端っこまでじっくり見れる気がして、それはずっと続けていることかな。
竹内 自分は研究ではなく、ただ描くだけと言うのをやってきたので、聞いてて不思議な感じ。そんなことを考えて制作とかしているわけじゃないから、面白い。「見る側の視点」が感じられて興味深いなと…。
美術館でのイラストメモも面白いね。
島田 何がきっかけで始めたかは覚えていないけど、描くことがルーティーンになってきたというか。これは山水の襖絵を見に行った時のもので、渓流や緩やかな丘っぽい傾斜の一つ一つを見ながら(描いて)、周りに気づいたことをメモしています。研究する側でなく制作する側の人が、逆にどう作品を見ているのかは気になる。
竹内 私の場合、作品の写真を撮って「よし、写真撮ったし!」と終わっちゃってるんだけど、やっぱりその場で描いて記録することって写真とは違うんだろうなって今思った。良いなって。
安田 私はそんなに美術的なことをしている専攻ではなくて、建築とか建物を見ることが多い。写真の方が細かいし、撮るけれど、いろんな建築家の話を聞くと、やっぱりみんな「スケッチはした方が良い」ってよく言う。構造とかわかった上で描くと、見えてくるものも違うし、自分が設計するときにも役立つ。
森 自分は映像をしているので、言葉に触れることがあまりなくて。そうやって要は細かい要素をまとめるってことですもんね。
島田 そうそう。
森 莫大な量の中から要素を選んでと言うのがすごいなと思いました。
竹内 言語化するだけでも時間がかかるからさ…。
島田 先生方も作品を見て感じたことや注目したいところをメモされるんですけど、全然ボキャブラリーの数が違う。見方も、先生方に比べたら(私は)まだまだ修行中やなって。
竹内 私は染織専攻の染ゼミの方に所属していて、その中でも着物をずっと作り続けています。元から着物を作ろうと思ってたわけではなくて、最初に初めて着物を作ったときに面白かったから、その後の作品も着物を作っています。どちらかというと私の作品は絵画的というか、日本画や油画の人とやっていることは変わりないんじゃないかな。とはいえ着物には制限があって、着た時と飾った時の状態に違いがかなり出るので、そこが着物の魅力かなと思いながら制作しています。友禅などよく聞く伝統技法もあるんですけど、私はろうけつ染という蝋を使ってマスキングしながら染めていく技法を使っています。
(資料の一枚を指して)これはラフ?
竹内 そうね。これは1番最初の下絵って感じで。次にA3サイズの同じような下絵を描いて…そこから原寸大の下絵を描いて…そこから下絵トレースして、布にトレースして、やっと染め、みたいな(笑)。ラフができたから、そのまま着物の布へGOというわけにも行かないところが、やっぱり染織って大変。作り方も細かい規定があって制限されているけど、その中で何ができるかをいろいろ試すことができる。
ラフの状態では良い感じでも、実物大にしたら絵がズレたりとかありそう。
竹内 めっちゃある!絵画では一枚のキャンバスに描けるけど、着物は一反一反分かれてるし、染める時はバラバラだから、最終的に縫ったときに合わないってことが発生する。そこを合わせることができるなにかが、長年の職人の方にはあるんだと思う。
島田 形は全然キャンバスとは違うけど、この空間の中で絵を展開させてるんだよね。着たときにこうなるようにって気をつけている点はある?
竹内 着たときも飾った時もある程度モチーフが良い位置に見えるように気をつけて、立体と平面を何回も考えて、微調整してる。それが1番時間かかるし大変。自分は今までなにも考えずに(着物を)着ていたけれどいろいろ計算されて作られているんだなって思った。
島田 モチーフにするものはどうやって決めているの?
竹内 私は鳥が好きなので、鳥を入れています。こっちは、夏休みに京芸を歩いていたら木が割れていたのと、その木にくっついた蝉の抜け殻が面白いなと思ったので質感表現として挑戦してみた。生きているものから感じられるものがあるかなぁ。
安田 平面も立体もどちらも美しく見せなきゃいけないのは大変だけど、そこに面白さがあるのかなって。絵画は大抵平面でしか見られないけど、立体にもなるっていうところが面白い。
竹内 そうそう。着てみて、自分の好きなものを纏えるのは魅力的。
森 染めるのは、型取ってその上に染料を置くって感じなんですか?
竹内 私の場合は、染料を置いてその上にマスキングする形で蝋で伏せてまた上から染料を入れて…ってしたり、日本画とかと同じように筆で描いたり、いろいろしてる。筆で描くのは技法として一般的ではないかもしれないのだけれど。
森 染めてないもんね。
竹内 (笑)表面に書いているだけで、全然染料が染み渡ってないから。良くはないかもしれないけど、自由な絵画表現ができるから私はやってる。
島田 工芸や染織は、絵画に比べて、動物の1番かっこよく見える姿を切り取って表しているように思う。ただ飾るだけじゃなく、着ている人をどう見せるかという視点があるからこそ、その違いが出るのかな。
竹内 着る人を思って染める時、「こう見えて欲しい」と考えるし、そこが楽しい。工芸全般って伝統的なことやってるイメージがあるかもしれないけれど、意外と私みたいに古典的な着物など作っている人は少ない。逆にみんなファイバーアート的なものをしているから。
安田 確かに作品展で染織専攻を見た時、服とか作っている人がいたなあ。幅広い。
安田 環境デザインは、ゼミがなくて、いろんなジャンルの課題をずっとやってる。内容としては建築もそうだし、内装設計、植栽、家具…本当にいろんなことをやってる。建物を建てる時って厳しい規則があるんだけど。これ(写真参照)は住宅の設計の時で、規則を満たしつつ、めっちゃ狭い敷地に自分のための家を作るという課題の時の図面。私はオープンな場を好まないこともあって、コンクリートの塊を掘っていくイメージで設計した。いつも図面を書いてるから、1番美術っぽくない専攻かなと自分では思ってる。設計するにあたって私が大事にしているのはやっぱりリサーチ。
メモが大量にあるね。
安田 私、文字にして出しちゃう方なんで。人によっては、すぐ設計の形から出す人もいるけれど、私はとにかくリサーチ。これはタマゴ屋さんのリノベーションを考える課題だったんだけれど、まずお店の人に「現状どんな問題を抱えているか」についてヒアリングをして…。気づいたことをとにかく書く!気になったことは全部調べる!あとはタマゴについて書いてる。意外とタマゴって知らないこと多いなって。私だけじゃなくて他の人もタマゴを知らないかもしれないということを、デザインに落とし込んでいけたらいいなと。私は、設計して空間のデザインを作り上げるというよりかは、デザインによってどういう人の行動が起きるかを考えることを意識していますね。いつもやっていることとしては、いつでもメジャーを持ち歩いて測るっていうこと(笑)。多くの椅子の高さは400ミリって決まってて、それが1番使いやすい。
へぇ〜。
安田 その使いやすい寸法から外れると、使いにくくなってしまうので、身の回りのものはなんでも測ってみるのが良いということです。
竹内 人間工学的なところと心理学的なところが合わさっているのが面白い。人に寄り添った制作をしている感じがする。
安田 そう、完全に人相手だから。自己中心的に、「自分が綺麗だと思ってるのはこうだ!」とはできないかな。課題でも条件を提示されることが多いから、好き勝手にはできない。
課題ってみんな同じものを同時に出されるの?
安田 みんな大体同時に。私は環境デザインの4回生1人でレアキャラなんですけど(笑)。学部プラス大学院の人でもやりたい人はやって良くて、全学年同じ課題をしている感じだね。そこも結構珍しいかなと思う。
全員同じ条件がある中で、どういうところからその人の個性って出てくる?
安田 空間一つにとっても自分の好みの空間って違うし、与えられた条件の中でどういったところを重視するかというのも人それぞれだから。意外と作品は全然違うことになる。院だと中国からの留学生の方も結構多いから、京芸の学部で絵を描いて院に入ってきた人と、建築学科でゴリゴリ建築やってから入学した人とだと、もう全然違う。京芸だとアーティスティックな感じがするけど、建築やってきた人は建築だなぁって感じ。
島田 (設計図を見て)こういう、ふとした曲線って面白い。
安田 でも建築的には、曲線でやるのは好まれない(笑)
竹内 丸い感じのフォルムの建築があったら落ち着くし可愛いなって気持ちになるわ。
安田 まぁ、そういうことでもやらせてもらえるのが京芸の環境デザイン専攻の良いところなのかな。
森 こういう設計図ってマス目ひとつひとつに注意を払って描いているんでしょう?
安田 大体CADっていってパソコンで描くことが多いんだけれど。私は手書きで書いていることが多い。何もかもが寸法が命の世界。しかも図面で描いたからといって実際に同じようになるとも限らないから、そこは模型作ってスタディしてを繰り返していくしかない。
竹内 意外と身近な分野だね。京芸だってそういうふうに作られて建ってるんやろうし。
島田 知らない間に自分の行動を操られていそう(笑)建物の中に入ってどういう動きするかとか。
竹内 京芸の新校舎のデザインも、学生をこう集めたいとか動かしたいとかいろいろ考えられているんだろうね。
森 僕のいる構想設計って、「どこにいるのかわからへん」とか「何してるのかわからへん」ってよく言われるんですけど。ゼミは2つに分かれていて、僕がいるゼミは主に写真と映像を扱った作品が多い。僕は映像で、アニメーションをやっています。(写真参照)これは「汲む」っていうタイトルの作品で、汲む動作を描き起こしてアニメーションを作ったものですね。
島田 なぜこの動作を?
森 この作品を作った時期もコロナだったっていうこともあって。当時僕が聞いていた曲に「汲む」という歌詞があったのが響いたというか、使えたら良いなと思ったことがきっかけです。このコロナで苦しんでいる世の中を優しく「汲ん」であげられるようになれば良いなと思ったから。
竹内 アニメーションをしようと思ったきっかけはなんですか?
森 僕、映画とか漫画をみるのがすごく好きで、京芸に入る前から映像を学びたいとは思っていた。あとイラストを描くことも好きだから、映像と自分のイラストを活かせるっていったらやっぱりアニメーションかな、と。あと新海誠の影響もあるかも。高2の時に「君の名は。」を劇場で見て、やっぱりその感動が忘れられない。今までかなりの本数の映画を見てきたけど、トップ3には入るなぁ。
竹内 自分を変える映像って何か1つはあるよね。
森 名シーンってずっと心に残りますもんね。ジブリも然り。
安田 私も建物の設計とかする際、建物と緑が混ざっているようなのが好きだから、よくジブリっぽいって言われる。自分でも影響受けているなぁって思う時もある。
森 今やっている卒業制作は、自分の描いたアニメーションをプロジェクターで壁に投影して1つの空間として見せることを目指しています。
島田 さっきの演出写真も卒業制作もピンクや水色がよく用いられているけど、その色が好きなの?
森 特に好きな色はないけど、自分の中で意識していなくてもビビットな色を使うことが多いかな。描いていたら知らない間に使ってる(笑)
竹内 ビビットな色って、映像の光でしか出せない色もあるよね。
森 光は、映す対象のものによっても変わるからなぁ。例えばベニヤと黒い板に投影したら、映像の映えが全然違う。どちらかといえば黒の方が映えやすい。それも考慮して映像を作らなければいけないっていうのはある。これは僕の高校時代の卒業制作なんですけど。
島田 この作品にも、やっぱりビビットなピンク色が…!
ほんとだ!
森 さっきの(ビビットな色を使いがちという)話、確かにそうかもって思った(笑)これは「ありがとう」というテーマで描いた作品で、テーマを伝えるにはどうしたら良いかなぁって考えた時に、大きい薔薇を描こうと思って。前にこれに似たのをCGで作った。
竹内 ある意味デジタル技術を1番扱っているなぁと。京芸ってあんまりデジタル的なことを専攻の制作でやらないから。個人ではやっているかもしれないけど。
森 構想設計専攻ってPCのスペックによっても変わって来る。俺はMacユーザーだけど、今見せた作品のようなCGをやろうと思うとゲーミングPCを買わないと駄目で…。それが結構高いんですよ、20〜30万かけなきゃ良いやつ作れない。
ピャ〜〜〜〜!
森 その点、構想設計の良いところは他の選考に比べて消耗品が少ないこと。一度買いきったら、他にお金はかからない。あとは、持ち運びが便利!USB挿してデータを運ぶだけ。PCが家にあったら完結できるから学校に行く機会がないんですよ!
安田 だから学校で見ないんですね…(笑)
最後に、それぞれの専攻のアピールなどあれば。
竹内 きていただけるならぜひ、染織専攻に…。工芸は最初一通り経験してから専攻を選べるから、自分に合ったものを選んでくれたら良いんだけどね。どこも楽しいけど、染織も楽しいからね!
島田 芸術学とか美術史の専攻は大抵文学部とかにあって、制作している人と離れた環境にある。だけど、京芸の総合芸術は周りに実際制作している友達がいて、その環境はとても貴重だと思っていて、みんなに感謝していることでもあります。
安田 デザイン科の中では1番人が少ない環境デザイン専攻ですけど、京都ということで寺社仏閣など普通じゃ入れないところを見学させてもらえたりするので、「京都で建築を学ぶ」というところはかなり大きいと思います。環境デザイン、是非来てくださ〜〜い…切実に…人が少なすぎるので…。いや、少人数だからこそ縦のつながりが強くて良いところもあるけど!
森 映像を学ぼうとする中で学費が安いところを選ぶと2個しかないんですよ。東京芸大の先端芸術学科と、うちの構想設計専攻。映像を学ぶとなると、どうしても私立とか専門学校を選ぶ人が多いイメージがあるけど、京芸の構想設計専攻は京芸でしか学べないところもあってすごく良い。どうぞ映像に興味があったら入ってください!
- インタビュアー佐々木 茜音
- カメラマン駒井 志帆
- 対談場所中央棟3階