2022年度 京都市立芸術大学 作品展 / 22-23 KCUA Annual Exhibition

島田 千晴 Chiharu Shimada 総合芸術学専攻

インタビュー場所について

では、自己紹介をお願いします。

総合芸術学科、4年の島田千晴と申します。

よろしくお願いします。それではこの場所についての記憶を教えてもらえますか?

私の記憶に残っている沓掛の場所は、この階段です。ここだけ、とってつけたような階段で、入学した時から面白いなと思っています。この先にアトリエ棟があるので、みんなで食堂でご飯食べた後に階段を登って制作室に行くというのが毎日のルーティーンになっていた時がありました。階段の形も面白くて。互い違いになっているだけの構造で、ただただ足を運ぶためだけのものというか…。なんでここに階段があるんだろうと、ずっと気になっています。

そうですよね。こっち(整備された正規)の道からいけば良いのにね。

そう、こっちは整備されているのに!でも、なんか可愛くて良い。近道したい人用に作ってくれたのかな?って思いますね(笑)不思議…。

階段の横にも踏み抜いて行ったような道がありますね。

地面が整備されてから階段が置かれたのか、それともこっち(階段がある方)に行きたい人が増えて踏まれて整備されて行ったのか。詳しい人に聞いてみたいですね。

春とか夏だともっと自然がモシャモシャで。

そう。今は結構地面があらわになっているけど、季節によってはもっと鬱蒼としているよね。ここの森感も結構いい。総基礎の時、この森のなかに課題の作品を建てていた人がいっぱいいた記憶があります。

この校舎ももう移転してしまうわけですよね…。

悲しい…。沓掛キャンパス独特の、この、歩く道が指定されていない感じ。いろんな方向に道があって、木の中を縫って行く、みたいなのが好きですね。

1・2回生の頃によくこの場所を通っていたのですか?

そうですね。3回生からは総合芸術学の授業が増えたから、この場所に来ることは少なくなった。

1・2回生の頃は別の専攻のことをしていたんですよね。

総基礎のあと、1年後期と2年前期は日本画に所属していました。

なぜ日本画に?

元々写生をしたりするのが好きだったのと、芸術学での研究として日本や中国の絵画をやりたかったというのがあります。研究するなら、自分でも触れた方がいいかなって。

総合芸術学の人はみんな日本画に行くわけでもない?

日本画は結構珍しい。工芸やデザインに行く人が多いかな。

そうなんですね!てっきり日本画が多いのかと。

私たち(今の4回生)の学年でいうと、工芸と構想設計と油画、日本画、かな?
みんな研究したいものに近い専攻に行っています。例えば油画専攻を選んだ人は、今、西洋美術について研究していたり。

私の勝手なイメージなんですけど、総合芸術学科って日本の伝統的な絵画や作品を扱っていると思っていました。西洋美術のイメージはなかったです。

西洋美術や洋画、あとアートプロジェクトも。近代、現代のデザイン、芸術祭に着眼点をおいて研究している人もいますね。

総合芸術学って、部屋が離れているから謎というか。通りすがりに覗く、みたいな機会がないですよね。

遠いからね…中央棟の4階。でも、是非遊びにきて!お菓子とかもあって、研究室の中は穏やかな空気が流れています。先生の研究室もあるから、他の専攻の方が来ても全然目立たないので、是非。

沓掛キャンパスの自由な感じが自分の制作や研究に影響を与えたことはありますか。

キャンパス自体も、人も、一つの対象に定めずいろんな方向に向いている。例えば芸祭になると自分で好きなグッズを作って売ったりとか。私も、自分が生まれるより前に描かれた中国の作品について研究をしているけれども、それだけでなく京芸の別の専攻の子とプロジェクトをすることもある。そういうことって自分を形成する上では全部繋がっているような気がして。みんなが幅広くいろんなことに挑戦して、いろんな方向から自分を極めているのは私が研究・制作する上でも刺激になっています。

卒業論文について

「自分が生まれるより前の中国の作品について研究をしている」とのことですが、卒業制作はそれがテーマなのですか。

総合芸術学科は卒業制作ではなく卒業論文なんですが、私は沈南蘋(シンナンピン)の清の時代、日本で言うところの江戸時代の画家について研究を続けていて、それを論文にしようかなと思っています。

論文は文字数など、条件があるのですか?

定まった条件はほとんどない。だから書きたければ、「書きたいようにどんどん描いていきなさい」と言う感じ。
今年も京都市京セラ美術館で展示をするのですが、論文と、論文をわかりやすくまとめた概要・自分が研究に使ったものや写真を、それぞれ(各自が)机一つに配置して展示します。論文が少しでも見る人に興味を持ってもらえるように、総合芸術学科として工夫しながら展示をしています。

その工夫というのは専攻を上げて取り組んでいるものなのですか?それとも個人的に?

おそらく元はどなたか先輩方の代で取り組みが始まって、総合芸術学科内にそのような歴史があるのだと思います。工夫して展示しようというのは、毎年ふわっと決まっています。

学科をあげて「工夫しよう!」と思ったことに取り組みやすいのは、少人数ということもあるのでしょうか。

そうですね。先生にも相談しやすい。1人の先生につくゼミ生の人数もすごく少ないし、気軽に相談しやすい。つまり研究も進みやすい。先生と相談しながら、一緒に研究を進めていく感じがあります。また、プロジェクトなども人数が少ないからこそ、仲良くやっていける。それは総合芸術学科のいいところかなと思いますね。

研究について

「研究」と聞くと難しく感じるのですが、具体的にはどのような手順でどのようなことを行っていくのですか?

私の場合は、沈南蘋(シンナンピン)という画家について知りたいなと思ったのが発端です。実は中国ではあんまり有名ではなかった画家ですが、鎖国政策下の江戸時代の日本では、中国から日本に絵を持ってきて欲しいという徳川家の命令があって、それで沈南蘋(シンナンピン)が日本に来ることになるのね。その当時日本になかった写実的な描き方や中国様式の絵画を持ってきて、日本美術の中では影響が大きい人。だけど、日本美術の中でも日本に来たのは数年だけだし、中国ではあんまり有名ではなくて。研究が進んでいない画家だからとりあえず画像として残っている作品を収集するところから始めました。画風も明らかになっていなかったので、収集した作品の中から特定のモチーフに絞って…例えばうさぎとか…。その中での画風の変遷を捉えようとしている段階に今はいます。

収集というのは、画像ですか?

画像が多いですね。図録や中国美術大全集の中から沈南蘋(シンナンピン)という名前でヒットしたものを集めて、それを表にしていく。

中国美術大全集というのは実物があるのですか?

そうです。実物として総芸(=総合芸術学科)の教授の部屋にあります。全部白黒で、小さい画像がびゃ〜〜〜って並んでる。そういう資料を今まで日本全国の大学の先生方が作ってくださって、それを頼りに研究を進めております。

なるほど、すごいですね…。

最後になりますが、この沓掛校舎への思いなどあれば教えてください。

人数は少なくてもやっぱり芸術大学という周りに作家としてリアルタイムで制作している人たちがいて、そういう人たちとコミュニケーションをとりながら昔の画家などを研究できる環境は、私にとって学生生活の重要な要素だったかな。それに加えて「なんでもやっていいよ」「学校の中にあるものはなんでも使っていいよ」という環境は私の中では「自由にしていいんだ」という学生生活の軸になった。人生の中でも大切な時間になったと思います。


インタビュアー:佐々木茜音
カメラマン:佐々木茜音
インタビュー場所:食堂からアトリエ棟に向かう近道の斜面

INTERVIEW 学生インタビュー